新潟DMAT隊員養成研修
※このページは厚労省・地方自治体・医療機関のものではなく、医療機関に勤務する一隊員の運営するページであり、内容や意見は個人的なものであります。災害時の救急医療行政への理解促進、DMATの認知度向上のために紹介するものですので、内容に関する問い合わせ等は新潟の道路探索屋までお願いします。
はじめに(DMATとは)
DMAT(災害派遣医療チーム)という言葉を聞いたことはあるだろうか。1995年の阪神淡路大震災では通常時であれば救命できた「防ぎえた災害死」が500名いたとされ、医療需要と医療資源供給のバランスが崩れた災害時に一人でも多くの人を救命しようと、厚生労働省によって日本DMATが作られた。DMATは医師1名、看護師2名、業務調整員1名(場合によって追加でいずれかの職種1名)で構成される。DMATは大地震や台風などの広域災害時に全国から駆けつける日本DMATと、多数傷病者の発生した事故現場や局地災害にかけつける都道府県DMATがあり、都道府県DMAT隊員になると日本DMAT隊員養成研修(4日間)のうち1.5日が免除となる。
DMATは何をするの?
映画やドラマでDMATの登場シーンを見ると、救急車で現場に駆け付け、瓦礫の下に潜り込んで治療をしたり、瓦礫に挟まった人を出すために四肢を切断したりするシーンが思い浮かぶ。確かにDMATが生まれた当初は「瓦礫の下の医療」という想定もあったようだが、現在は安全確保を最優先にし、瓦礫の下の医療は最終手段として、あまり行われないようだ。
DMATや災害医療の研修では、「CSCA・TTT」という言葉を何十回も聞く。これは、Command&Control(指揮・命令系統の確立)、Safety(自分・現場・傷病者の安全の確保)、Communication(情報・通信の確保)、Assessment(評価)を行った後に、Triage(傷病者の選別:トリアージ)、Transport(搬送)、Treatment(治療)を行うという基本的な考え方である。DMAT隊が被災現場に入るときには、被災県の県庁に置かれる本部や災害拠点病院の本部指揮下に入り、現場消防指揮所と連絡を図るところから始まる。DMATは被災県知事からの要請を受け出動するのが基本ルールだが、実際には消防からの連絡を受けて現場に駆け付けるため、後刻、県知事から要請があった体にすることがあるようだ。
DMAT到着時には消防や警察がすでに現着しており、傷病者の救出が始まっていることが考えられる。傷病者が多い場合には、トリアージを行って、どの患者から搬送するか、どの病院に搬送するかを決める。DMATは救命を第一に考えるため、現場での治療は最小限に留め、搬送に耐えうるよう安定化処置のみを行う。被災地の災害拠点病院などに集められた患者は、必要に応じて広域搬送(被災地外に搬送することで被災地の負担を軽減させ、通常体制の病院で救命・予後改善を図るもの。国が主体となって行うもので、自衛隊機やドクターヘリを用いて被災地外のSCU拠点に搬送する。)を行う。
DMATは上記のような現場活動のほかにも、医療機関のない地域での救護所の設営や巡回診療を行ったり、自前の救急車で現場から医療機関への患者搬送、多数傷病者の受診やライフライン停止で混乱した病院支援や倒壊の危険がある病院の避難の計画、新興感染症の際には福祉施設等の支援(新型コロナ渦でDMAT業務に追加された)など、幅広い活動を行う。
DMATになるには
DMATは「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」とされ、厚労省の行う日本DMAT隊員養成研修や、都道府県の行う都道府県DMAT隊員養成研修を受講する必要がある。その研修受講要件として、DMAT指定医療機関に勤務している①医師か②看護師か③その他職種職員である必要がある。新潟県で言えば、2つの基幹災害拠点病院と12の地域災害拠点病院があり、いずれの14病院ともDMAT指定医療機関に指定されている。
新潟の道路探索屋は入職時から災害医療に携わりたいと考え、DMAT指定医療機関に事務系職員として就職した。入職7年目にしてようやく、業務調整員として研修を受講することが叶い、県から業務を受託している新潟大学の医療人育成センターで2日間の研修を受けた。研修前にはe-learningで座学を受講し、当日は現場救護所の設営や搬送を考えた机上ディスカッション、トリアージとトリアージタグ記載練習、クロノロジー(経時記録)の記載や、職種別研修を行った。最後のペーパーテストと実災害を想定した演習を経て、晴れて新潟DMATの隊員となることができた。
(おまけ)業務調整員(ロジ)って?
ここまで、DMATを構成する職種に①医師、②看護師、③業務調整員が存在することは紹介した。業務調整員はロジ(Logistics)とも呼ばれ、看護師を含めて薬剤師や診療放射線技師、臨床工学技士、リハビリスタッフ、事務職員など、医療機関に勤めていればどの職種でも充てることができる。
ロジの業務とは、ずばり医師の行う医療行為、看護師の行う看護処置・保健予防活動を除く、隊のその他業務全般である。(笑)これがなかなか重く、活動に必要な物品や宿営するホテルの準備、被災地までの救急車の運転、衛星電話や無線通信の運用、救急医療情報システム(EMIS)の隊活動状況入力、病院や救護所でのクロノロジー(経時記録)や受入患者一覧表の作成、場合によっては県庁に置かれる災害対策本部の支援業務などなど、活動の幅は非常に広い。また、医師や看護師は普段の業務の延長である一方、ロジ業務は通常業務と全く異なることから、医師・看護師以上に研修や訓練が重要である。
ロジがコケると、救護班やDMAT活動がコケるため、責任重大である。(これは個人的な感想)